こんにちは。前回「夏の思い出」からひと月、「秋ですね」と言いたいところですが、日中はまだまだ暑く、朝夕は涼しく、一日の中で季節の変わり目を行ったり来たりしているようです。この季節をなんと呼べばいいのでしょう?
さて、前回のブログでは、がんばっている若者の姿を見守る芳野が、最後に「郷愁にも似た懐かしく淡い感情をそっと胸の内に置きながら過ごした夏の終わりでした」という一文を書きました。詩的で、印象に残るフレーズだったので、どんな気持ちなんだろう、どんな風景が胸の中で描かれているのだろうと、しばらく想像を膨らませていました。「懐かしい」の一言では言い足りないし、他の言葉ではニュアンスが変わってしまう。繊細で複雑で、この一文でなければ表現できない気持ちが描かれていたのだと思います。
感情は、成長するにつれて複雑になっていきます。赤ちゃんは、はじめは快適かそうでないかという単純な状態で、そこから枝分かれするようにいろいろな感情のバリエーションを増やしていくと言われています。しかも、正反対の2つの感情を同時に感じるようになったりして、一色ではない、いろいろな色を重ねたような感情のあり方も出てきます。だから、繊細で複雑な感情は成長の証なのかも知れません。そう思うと味わい深いですね。
ところが、今度はその気持ちを言葉にするときに壁にぶつかります。複雑な感情をそのまま言葉で言い表すのは難しいことです。言葉をたくさん知っていても、その中から今の気持ちを描く言葉を選ぶのは簡単ではないし、絵の具を混ぜるようにいろいろな言葉を重ねないとぴったりにならないこともあるからです。「なんか違う」という言葉では逆にモヤモヤしてしまいます。
でも、逆に、一言で気持ちがまるごと表現できたと思える言葉に出会えることもあります。そんな奇跡的な瞬間は、清々しく、満ち足りた気分になりますし、他の誰かのそういう瞬間に出会ったときもまた、感動があります。大変だけど、感情をきちんと言葉にできるというのは気持ちのいいことなのです。
自分で考えても思いつかないときは、好きな歌の歌詞、小説などから、自分の気持ちにぴったりくるものを探してみてもいいでしょう。いろいろなものが一言にぎゅっと詰まった俳句や短歌、詩なども新たな発見があるかもしれません。
まだ秋の入り口ですが、これから深まる季節、ゆっくり自分の気持ちを描く言葉を探してみてはいかがでしょうか?
今回の担当は中村でした。
次回の担当は芳野です。
お楽しみに。